2018.12.3
/
中国・アセアンNews

はじめての海外進出!「移転価格税制」に要注意

(写真=imtmphoto/Shutterstock.com)
(写真=imtmphoto/Shutterstock.com)
海外に法人を持つ際、経営者を悩ます頭の痛い問題は「税金」です。税金は国によって税率も仕組みも異なるため、やり方次第では脱税と認定されかねない場合も生じてきます。このような海外の関連企業との間の取引を通じた所得の海外移転を防止するため、海外の関連企業との取引が通常の取引価格(独立企業間価格)で行われたものとみなして所得を計算・課税する制度のことを「移転価格税制」と呼びます。本稿では海外M&Aを行う際に注意すべき移転価格税制について解説します。

海外の子会社に安い価格で売ると税務上の「待った」がかかる

日本の法人税実効税率(国税である法人税だけでなく、地方税を含めて、法人企業の利益に課税される税の実質的な負担率)は約30%(平成30年度)ですが、例えば同じアジアの先進国シンガポールでの法人税率は17%と大きな差があります。そこで、この税率の差を使って節税できないかと考える人もいることでしょう。

例えば、まずシンガポールに子会社を設立し、親会社は子会社に通常よりも安い価格で商品を売ります。そして、現地では子会社が日本と同程度の価格で顧客に商品を販売します。すると、日本で立つはずだった売上の一部を税金が安いシンガポールに移すことができます。

実際の計算で考えてみましょう。日本国内における仕入価格が60万円、販売価格が100万円の機械があるとします。通常、同業者には90万円で卸しており、同じ価格でシンガポールの子会社に販売するとします。また、シンガポール現地では日本と同じ100万円で売れたとします。

この場合、法人税は単純計算で次のようになります。

<日本>
(シンガポールの子会社への販売価格90万円-日本国内における仕入価格60万円)×法人税実効税率(日本)30%=法人税額9万円

<シンガポール>
(シンガポール現地での販売価格100万円-シンガポールの子会社への販売価格90万円)×法人税率(シンガポール)17%=法人税額1.7万円

<税金合計>
日本での法人税額9万円+シンガポールでの法人税額1.7万円=合計10.7万円

海外の関連企業との取引価格を「移転価格」と呼び、上記の事例ではシンガポールの子会社に売った商品の代金である90万円が「移転価格」に該当します。次いで、この移転価格を通常の卸価格よりも安く、80万円と設定した場合、法人税はどうなるでしょうか。

<日本>
(シンガポールの子会社への販売価格80万円-日本国内における仕入価格60万円)×法人税実効税率(日本)30%=法人税額6万円

<シンガポール>
(シンガポール現地での販売価格100万円-シンガポールの子会社への販売価格80万円)×法人税率(シンガポール)17%=法人税額3.4万円

<税金合計>
日本での法人税額6万円+シンガポールでの法人税額3.4万円=合計9.4万円

このように通常の卸価格で売ったときに比べて、10.7-9.4=1.3万円分、税金が安くなります。しかし日本の税務当局は、このような手法を許してはいません。一定の基準をもって適正な移転価格を計算し、その結果に基づいて課税する制度をとっています。これが「移転価格税制」です。

はじめての海外進出で気をつけたい税金問題

安価な移転価格で税務申告をすると、後日、税務調査が入って指摘を受け、追徴課税が課されるおそれがあります。また、移転価格での行為が特に悪質だとみなされた場合、罰則が課されることもあります。

問題となるのは追徴課税や罰則だけではありません。双方の税制に対してあらかじめきちんと対処をしておかないと今度は二重課税の問題が生じてくるのです。わかりやすく先の例で述べましょう。移転価格を80万円とし、それが税務署に指摘されたとします。

すると日本の税務当局は少なくとも本来自国(日本)に納税されるはずだった税金との差額3万円(9万円-6万円)を請求することになります。

しかし、その3万円を払ってもシンガポールで納めた3.4万円は返ってきません。支払う税金の合計は12.4万円(日本での税金6+3=9万円+シンガポールでの税金3.4万円)となり、通常の卸価格で売った場合の10.7万円よりも1.7万円も高くついてしまいます。

一部の多国籍企業は書類の提出が必要

移転価格税制に関する比較的新しいトピックとして、2016年から一部の企業は国税当局に一定の文書を提出しなければならなくなったこと等が挙げられます。対象は、「直前会計年度の連結総収入金額 1,000 億円以上の多国籍企業グループ(特定多国籍企業グループ)の構成会社等である内国法人及び恒久的施設を有する外国法人」です。自社がこの制度の対象会社に該当するか否か、一度確認してみる必要があるでしょう。

海外子会社との取引は客観的に適正な価格で

移転価格について税務調査で指摘されると、追徴課税や現地との二重課税など、余計な税金を支払う必要が出てくるため、注意が必要です。はじめての海外進出を目指す企業は、国際課税に強いコンサルタントや税理士と連携しながら利益計画を立てることをおすすめします。

>>専門家に相談してみる
>>無料のeBookはこちら
NEXT アジア圏内クロスボーダーM&A 現地法人化の成功のカギは

関連記事